◇あらすじ
「……ああ……またお前か、はぁあ……よくやるよな、毎日毎日、まったく……」
また、彼女だ。
昨日も今日も一昨日もずっと、また、また、この娘が部屋の前で‘待ち伏せ’ている――。
「また、とはなんです? ずいぶんな物言いですね」
「おい、人のポケットに手を突っ込んで、勝手に鍵を抜き取ろうとするなよ……」
にっこりと微笑む、わけのわからない美少女。
黙っていれば天使のようだが、喋るととっても図々しい娘。
俺にまとわりついてくる奴。
まあ、なんでこうなったかというと――。
つい先日のこと。
帰り道の繁華街で男たちに絡まれているこの少女を機転を利かせて助けたところ、
何故か俺に付きまとうようになった。
そして部屋に入れてくれとせがまれたが、そんなことが周囲に知れたらたちまち
‘事案発生’だ。
だから、きちんと断った上、さっきのこともあるし夜道は危ないからという理由で、結局その時は、学園の寮まで送る羽目になったのだが……。
「……今日こそは、お部屋に入れてもらいます。入れてもらえないのなら、悲鳴を上げるしかありませんね」
「な……!!」
部屋に入れれば‘事案発生’。
部屋に入れなくても‘事案発生’。
進むも地獄、退くも地獄……。
「どういたしますか? 悲鳴コースか、それとも、お部屋に入れるコースで……」
馬鹿馬鹿しい究極の選択ながら、俺はむっつりと黙りこくったままどうにも致し方なくて、俺は部屋のドアを開けた。
「ありがとうございます、尚人さん! それでは、お邪魔いたします」
財前花澄と名乗ったその少女は、満面の笑みを浮かべて得意げに胸を張り、俺よりも先に俺の自室内へと入っていったのである。